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東京高等裁判所 昭和43年(ラ)49号 決定 1968年5月16日

抗告人(被審人) キューピー株式会社

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告代理人は、「原決定を取り消す。手続費用は国庫の負担とする。」との裁判を求め、その抗告理由は、別紙のとおりである。

一  抗告理由一について。

抗告人は、原決定には、労働委員会の確定命令の性格について解釈を誤まつた違法があるという。抗告人に対して影山政光、染谷誠一、斉藤文清(以下、影山ら三名と略称する)に関するかぎり確定した中労委昭和三九年(不再)第一二号事件及び同第一三号事件救済命令の内容が影山ら三名を原職または原職相当職に復帰せしめること等を含め同人らが解雇された日以後解雇されなかつたと同様の状態を回復させなければならない旨命ずるものであつたことは、抗告人所論のとおりである。しかし、右「原職または原職相当職に復帰せしめること」が就労拒否の排除を不可欠のものとして包含するものであつたことは、右救済命令の全体の趣旨からこれを認めることができるところ、抗告人が昭和四一年一二月二二日右命令の命令書の交付を受けながら、昭和四二年一月七日付をもつて影山ら三名に対する当初の解雇を取消すとともに別命あるまで自宅待機を命じ同月九日同人らを再解雇することにより同人らに対する就労拒否を継続して就労拒否排除に必要な措置を執らなかつたことは、一件記録によつて明らかである。ところで、原決定は、原職または原職相当職に復帰せしめることを含め、影山ら三名が解雇された日以後解雇されなかつたと同様の状態を回復させることを命ずる救済命令を抗告人が履行していないことを判示しているのであつて、その趣旨は、当初の解雇につき救済命令があることの故に新たな解雇をなし得ないとするものではなく、当初の解雇の取消と同時になされた自宅待機命令が新たな解雇とともに第一の解雇後の就労拒否の継続として救済命令の不履行となるとするものと解せられるから、原決定は正当であり、論旨の採り得ないことは明らかである。

二  抗告理由二について。

抗告人は、原決定は憲法三二条の保障する裁判を受ける権利を侵害するものであつて違法であるという。しかし、本件救済命令が原職または原職相当職に復帰せしめることを含め、影山らが当初解雇された日以後解雇されなかつたと同様の状態を回復させることを命ずるものであるにかかわらず、抗告人が就労拒否を続けて右確定命令の履行をしなかつたことは前記のとおりであつて、原決定は、第二の解雇を第一の解雇の取り消しに伴つてなされた自宅待機命令との関連において就労拒否排除措置を命ずる本件救済命令の不履行として把握し、自宅待機命令を伴う第一の解雇の取消を原職復帰命令の履行と解しても(この判断があくまでも仮定的なものであることは、判文自体及びさきに判示したところから明らかである)、それは第二の解雇をなすための形式的な履行であり、救済命令の履行を装つた脱法行為であると断じているにすぎない。この判断は、仮定的なものとはいえ、第二の解雇を無効と判示している点において、所論の違法を疑わしめないでもないが、それが所論「雇用関係不存在確認」の訴訟における判断を拘束するものでないことはいうまでもない。

さらに、本件命令のように労組法七条一号違反行為に対して発せられた救済命令は、労働者に対する不利益取扱によつて生じた労使関係のひずみを原状に回復するために発せられるものであるから、本件命令の場合の如く、原職または原職相当職への復帰を命ずるときも、労働契約上の労働者の地位を確認し、もしくは形成せしめるものではなく、使用者が右命令に従つて原職または原職相当職に労働者を復帰させても労働契約上の労働者の地位が確認もしくは形成されるとはいえないと解するのが相当である。してみれば、原決定をもつて「実質的に裁判を受ける権利が全く侵害される結果になる」とか、「第二次解雇に関する私法上の効力を民事裁判によらずして判断したと同一の結果をもたらしている」(抗告理由三、3参照)ということはできない。したがつて、論旨は理由がない。

三  抗告理由三について。

論旨は、原決定には、過料の裁判に関する法律の解釈適用を誤つた違法があるという。しかし、原職または原職相当職に復帰させること等を含め、その労働者が解雇された日以後解雇されなかつたと同様の状態を回復させなければならない旨命ずる本件救済命令に従つて、使用者がその労働者を原職または原職相当職に復帰させても、労働契約上の労働者の地位を確認するといえないことは前記のとおりであつて、右救済命令の履行がその労働者において労働契約上労働者の地位を引き続き保有することを前提とすると解すべき理由はない。したがつて、右救済命令を交付されたのち使用者がその労働者らに懲戒解雇すべき事由を発見して解雇した場合にも、使用者は、その解雇の効力のいかんにかかわらず、本件の場合のように救済命令が確定しているときは、その趣旨に従い、その労働者を従業員として取り扱わなければならず、右解雇の有効を前提とする民事訴訟が裁判所に係属中であつても、この結論にかわりはないというべきである。論旨は、第二の解雇により、現時点においては、救済命令を強制すべきではない事態が生じているから、過料を科する余地がないというが所詮独自の見解というほかはない。また、過料の裁判によつて労働者らを従業員として取り扱うことを間接に強制することが労働者らの労働契約上の地位を確認もしくは形成せしめる結果となるといえないことは上来説示したところによつて明白であるから、解雇の効力に関する民事判決の確定するまで過料の裁判を留保すべきであるという所論も失当である。なお、所論の趣旨に従えば、原職復帰等を命ずる救済命令の不履行事件について、使用者がその労働者を再解雇して雇用契約関係不存在確認訴訟を提起することにより過料の裁判を右訴訟の落着まで引きのばす弊害をもたらし、そのようなことがあれば、秩序罰によつてすみやかに救済命令の実効的実現を回復しようとした労組法三二条の目的は、ついに達せられないこととなるのであつて、この点から考えても、論旨の不当なことはいうまでもない。

四  抗告理由四について。

論旨は、原決定は時間外手当の性格に関する法的解釈を誤つた違法があるという。しかし、前記影山ら三名に関するかぎり確定した救済命令が同人らに支払うべきことを命じた解雇から復職に至るまでの間に同人らが受けるはずであつた「諸給与相当額」には、「解雇後の賃金ベースの改訂及び定期昇給の措置ならびに臨時に支払われたすべてについて考慮し計算されたもの」が含まれていることは、前記救済命令の「理由」に明記されているところである。右文言によれば、右救済命令が臨時に支払われたものであると否とにかかわらず時間外手当相当額を給与相当額に算入して支払うべきことを命じた趣旨を窺うことができ、それは原状回復の目安として、解雇当時労働者が現実に取得していた賃金額と算定可能な付加的給付額とを具体的基準として示したものに過ぎず、もとよりその労働者の賃金請求権を確認もしくは形成するものではなく、また、その履行としてなされた諸給与相当額の支払いに法律上の原因を与えるものではない。したがつて、若し時間外手当が民法五三六条二項の反対給付に該当しない場合には、使用者は救済命令の履行として支払つた時間外手当相当額の返還を不当利得として請求することができると解すべきであつて、原状回復の方法として時間外手当相当額を含む給与相当額の支払いを命ずることがその救済命令を無効ならしめるものといえないことは明白であり、もとより、すでに確定した救済命令の履行を過料の制裁をもつて強制する妨げとなるものではない。されば論旨は理由がない。

五  なお、記録を精査しても、原決定には違法な点がない。

以上により抗告人は、本件救済命令が確定した昭和四二年一月二二日以降右命令不履行の責を免れないものというべく、これと趣旨を同じくする原決定は相当であつて本件抗告は理由がない。

よつて、主文のとおり決定する。

(裁判官 三淵乾太郎 三和田大士 園部秀信)

(別紙)

抗告の理由

一、原決定には、労働委員会の確定命令の性格について法的解釈を誤まつた違法がある。

1 労働委員会の救済命令は、その命令(初審命令)の交付の日から効力を生じ(労組法第二七条第四項)、初審命令に対し再審査の申立をせず、または再審査命令に対し行政訴訟の提起をせずして当該命令が確定した場合、当該命令の違反につき、十万円(当該命令が作為を命ずるものであるときは、その命令の不履行日数一日につき十万円の割合で算定した金額)以下の過料にせられるべきものとされている(労組法第三二条)。本件は中労委の命令が確定した場合にかかり、不履行と見るべき事実の有無が問題となる。

2 ところで、右の命令違反がいかなる場合に成立するかについては、単に外見上の形態、現象のみによつて判断されてはならず、当該命令の法的性格、事実関係の意味合いが慎重に検討される必要がある。本件命令(再審査命令によつて支持された初審命令)は、

「会社は、組合員影山政光、同染谷誠一、同斉藤文清に対し、次の措置を含め、同人らが解雇された日以降解雇されなかつたと同様の状態を回復させなければならない。

(1) 原職または原職相当職に復帰せしめること。

(2) 解雇から復帰に至るまでの間に同人らが受けるはずであつた諸給与相当額を同人らに支払うこと。」

というのである。

右命令の趣旨は、あくまで、「(解雇された日に)解雇されなかつたと同様の状態を回復させ」るところにあるのであつて、その限度を超えて、より有利に取扱うべきことを命ずるものでは毛頭ない筈である。すなわち、例えば、不当労働行為として取り上げられた解雇について救済命令のなされた後、労働協約ないしは就業規則に定められた「停年」に達したものについては、これによつて雇用関係は終了せしめられるが(停年には、一定年令に達すれば当然に雇用関係の終了する趣旨のものと、停年を理由とする解雇の意思表示を要するものとがあるが、いずれの場合も同様である)、労働委員会の命令を根拠に、停年に達した後もなお雇用を継続すべきことが使用者に義務づけられるものではあるまい。また、当初の解雇について救済命令のなされた後懲戒解雇に値する事由の存することが判明した場合(その事由が、右命令の時期の前に存した場合―例えば経歴詐称や、また本件の如き場合―と、右命令の時期の後に発生した場合とが考えられる)、企業合理化のための人員整理に伴い整理基準に該当した場合等において、当初の解雇につき救済命令が存することの故に、新たな解雇をなし得ないものと解することはできない。然るに原決定は、救済命令後の解雇に伴う措置をとらえて、直ちに命令不履行と断ずるものであつて、労働委員会の命令の性格について法的解釈を誤まり、労働組合法の解釈適用を誤つたものというのほかはない。

二、原決定は、憲法第三二条の保障する裁判を受ける権利を侵害するものとして違法である。

1 抗告人は、第二次解雇につき、その有効を前提として雇用関係不存在確認の訴訟を提起し、東京地方裁判所に係属中である(昭和四二年七月一〇日提起、昭和四二年(ワ)第七、三〇七号)。第二次解雇の私法上の効力は右訴訟によつて将来確定されるわけであるが、目下会社において、影山、染谷、斉藤の三名につき従業員としての取扱をしていないのは、まさに、右第二次解雇による雇用関係不存在を理由とするものである。

2 本件救済命令は、前記のように、原職復帰、いわゆるバツクペイの支払を命ずるものであるが、第二次解雇に基づき原職復帰をさせていない事態を目して直ちに命令不履行なりとし、過料の制裁を以て、これを強制することは、第二次解雇に関する裁判所の裁判を受ける権利を侵害するものといわざるを得ない。

すなわち、前記民事訴訟において第二次解雇の効力が判断されるに先だつて、過料の制裁による強制に基づき原職復帰が実現せしめられたのでは、民事訴訟の結果は全くの無意味に帰し、実質的に裁判を受ける権利が全く侵害される結果となるものといわなければならないのである。

三、原決定には過料の裁判に関する法律の解釈適用を誤つた違法がある。

1 労組法第三二条に定める過料は、あらためて指摘するまでもなく、行政上の強制執行の一に属し、執行罰ないし強制罰と称せられる性質のものである。これは、義務の履行のあるまでは反覆して科することを妨げないが、強制すべき必要性の消滅しているときは、もちろん科する余地のないものである。

2 本件の場合、抗告人が影山ら三名を従業員として取扱わないのは、第二次解雇に伴うものであり、然る以上、右解雇が無効とされない限り、この解雇に伴う措置を肯定すべきであり、解雇の効力に関する民事判決の確定するまでは、強制の必要なきものとして、過料の裁判を留保すべきが当然である。

3 また、過料の裁判は、裁判とはいいながら、訴訟ではなく、あくまで行政作用に属するものであり、非訟事件として、非訟事件手続法によりなされるのである。従つて、過料は、明白な違反行為についてのみこれを科し得べく、本件の如く、当然、第二次解雇の効力についての判断を前提としなければならないものについて、その判断を敢てし、または、これをことさらに回避して過料を科することは許されないものというべきである。すなわち、本件の如き事案において、非訟事件の中で第二次解雇の効力を判断するとすれば、本来民事訴訟において判断すべき事項を判断する違法を敢えてする結果となる。また、ことさら第二次解雇の効力に言及せずして過料を科するが如きことがあれば、これもやはり、法律的には同様の誤謬を犯しているものといわざるを得ないのである。この点に関する原決定の態度は、右両者の何れに属するものか必ずしも明確といいがたいが、いずれにせよ、過料を科すべきか否かの判断にあたり、その判断の前提となる第二次解雇に関する私法上の効力を、民事裁判によらずして判断したと同一の結果をもたらしているものと断ぜざるを得ず、その点において、過料の裁判が非訟事件であることを見誤つた違法がある。

4 原決定は「形式的に救済命令不履行の事実があつたとしても、(イ)その不履行の程度、態様が極めて軽微であるとか、(ロ)使用者が救済命令を履行することにより企業の存続が不可能となるような切迫した事情があり、かつ、右事情を認めるについては、通常人において疑の余地がないほど明白かつ合理的な資料があり、このことの故に使用者に対し救済命令の履行を期待する可能性が存在しない場合においては、救済命令違反の違法性ないし責任性は阻却されて、その使用者は過料の制裁を免れるものと解すべきである」との見解をとり、本件第二次解雇について、「影山らが前条のような反企業的行動をなすであろうということについては、右の事実関係のもとでは到底これを認めることができないし、かりに会社主張のようにラツピング事件が影山らの共謀または教唆もしくは煽動によるものであつたとしても、このことから直ちに影山らが再び同種の行為をなすということはできない」から、右(ロ)の場合に該当しないというのである。

原決定のいう、救済命令違反の違法性ないし責任性阻却云々として論ずるところは、むしろ、第一審裁判所独自の見解を前提とし、ほしいままに設定した要件についてその充足の有無を判断しているもので、もとより失当である。

会社は、影山らが、今後反企業的行動をなすおそれがあるというようなことは些かも主張してはいないのであつて、もつぱら、同人らのラツピングマシーンヒーター切断事件についての責任による第二次解雇がなされていること、この解雇に伴い同人らを従業員として取扱わないことが、形の上で一見命令不履行の観を呈するけれども、これは命令不履行と見らるべきことではないこと、すくなくとも、第二次解雇の効力(雇用関係の存続の有無)に関する民事訴訟における結論を見ない段階において不履行ととらえることが失当であること、従つて現段階で過料を科する余地がないことを主張しているのである。原決定がこの点を顧慮せず軽々に不履行の事実ありとしたことは重大な誤謬である。

5 既に述べたように(前記3)、原決定の、第二次解雇の効力についての態度は明確でなく、第二次解雇に関する事情をひととおり認定しながら、これを第二次解雇の有効・無効の問題として論ぜず、みずから一方的に設定したところの要件、すなわち、影山ら三名に反企業的行為反覆の可能性があるかないかの問題にすりかえているのである。これは、第一審裁判所も、第二次解雇の効力についての判断を法律上なし得ないことを、充分認識していたことを示すものともいえるが、それを独自に設定した限定的要件に照らして、無理矢理、不履行の結論をひき出すに至つたのは、誠に遺憾というのほかはない。

なお、第一審裁判所における審理に際し、第二次解雇に関する具体的事実については解雇無効事件(民事訴訟)においてこれをなすべしとして、この点に関する被審人(抗告人)の立証が大きく制限されたものであることを附言する。抗告人はラツピングマシーンヒーター切断事件の内容並びにその責任につき、さらに立証を補う用意がある。原決定は、右事件の取扱につき、「会社が恣意的ないし軽率に判断したものとみられてもやむを得ない」というようなことをいつているが、これは全くの誤りであり、慎重検討した上でのことである。

6 原決定は、「会社は、第一の解雇取消、自宅待機命令をもつて、本件救済命令のうち原職復帰命令部分は履行されたものであると主張する」が、「会社が現実に影山らを就労させていない以上、原職復帰命令の履行はなかつたものというべきである」としている。しかし、これは、本件の核心・会社の主張の趣旨を見誤つているものである。会社主張の法律上の趣旨は、第一の解雇取消、自宅待機命令によつて、命令の履行がなされているというよりも、第二次解雇によつて、労委命令をそのまま強制すべきでない事態が生じている、すなわち、現時点において強制の方法として過料の裁判をなす余地が失われているということを論ずる趣旨のものである。本件にあつて重要なのは、解雇取消、自宅待機の命令ではなく、第二次解雇と労委命令との関係をどうとらえるかにあるのであるが、原決定は、ことさら、この点を看過しているものといわざるを得ない。

7 また、原決定は、「会社が昭和四一年一二月二八日に再解雇を決定しながら昭和四二年一月七日に第一の解雇を取消して自宅待機を命じたうえ同月九日に第二の解雇をなした、いわば技巧的な態度」云々と述べ、右解雇取消、自宅待機命令を第二の解雇をなすための「形式的な履行」であり、「履行を装つた脱法行為」であるときめつけているが、これは全く的はずれの非難である。この点に関する抗告人の法律的主張については既に述べたので(前記6)繰り返さないが、第一次解雇取消、自宅待機命令、第二次解雇の措置は、第一次解雇が仮に認められないということになるなら、中労委命令後明瞭となつた事由に基づき、この責任は放置できないとして第二次解雇をなさざるを得ないという抗告人の態度に出るものであり、ラツピングマシンヒーター切断事件の重大性にかんがみれば至極当然というべきである。このような場合、第一次、第二次両方の解雇を係争事件としてゆくか、一方(特に第二次解雇)だけにしぼるかは、使用者の判断によるが(過去の事例としては両方ある)、何れをとつても自由というべく非難される筋合はない。本件の場合は、後者の方法がとられたのである。しかしてその際、形の上での事務手続が、第一次解雇取消、自宅待機を命じ、それに接着して第二次解雇がなされたとしても、これを目して技巧的態度と非難することはあたらないであろう。第二次解雇をなすべきことを決定した以上、一旦職場に戻し、さらに第二次解雇すること、或いは、第二次解雇をしておいて、その後第一次解雇を撤回することの方が、見方によつては、もつと技巧的であろう。要は、第二次解雇の意思表示がそこにあるのであるから、それと労委命令の履行との関係を検討すべきなのである。原決定は、ことここに出でず、第一次解雇・自宅待機命令が不履行になるかどうかの点からのみ判断を進めたものであり、既に縷々述べたとおり、原決定の右態度は根本的に誤つているというのほかはないのである。

四、原決定は、時間外手当の性格に関する法的解釈を誤つた違法がある。

原決定は、抗告人が第二次解雇までのバツクペイ(提供済)から時間外手当相当額を除外したことを相当でないとし、その点にも不履行があるという。しかしながら、時間外勤務は、使用者がこれを命じてはじめてあり得るのであり、しかも命ずるか、否かは、業務の都合により極めて浮動的、弾力的なものであつて、労働契約上本来当然の権利義務に属しない。バツクペイの本質は、民法第五三六条第二項の反対給付にあたるものと解せられ、この反対給付の中には、時間外手当は含ますべきものではないと考える。 以上

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